わせぶんブログ

早稲田大学公認サークル早稲田文芸会のブログです!

早稲田祭2015 裸婦餓鬼『静止』

 人は多く動いているものや変わっていくもの、つまりに変化に注目することはあっても、変わらないものや動かないもの、つまり「静止」しているものに注目することは存外に少ないかもしれません。というのも、物事が「静止」しているのであれば、以前に了解したその状態と現在の状態がほぼ一緒であるはずなので、同じことを繰り返して確認する必要がなく、一度で何かの状態を把握できる、と言えるからです。変わらないものは一度把握してしまえば理解に易く、それ以降気に掛ける必要がありません。だから、多くの人は何度もその状態を把握する必要のある変化に気を取られがちになり、「静止」についてはおざなりな態度を取りがちになります。

 しかしこの把握というものが厄介で、真に「静止」を把握しようとする人たちは極めて少ないと言えます。というのも、誰が変化を差し置いて「静止」しているものの様子を注視するでしょうか。誰が注視していない「静止」を正確に把握することができるでしょうか。要するに、私たちは元々「静止」しているものへの注意を持っていないのにも関わらず、構造から変化を重視し「静止」を軽視しているのです。ここに「静止」にまつわる問題が浮き彫りになります。例えば、これは何でもよいのですが、動いていない段ボール箱を一時間なり二時間なり、じっと見つめてみたとしましょう。そこで私たちはあまりに多くの意外な段ボール、言い換えれば『注意してみなかったために見落としていた「静止」した段ボールの様子』に気が付きます。B5サイズとA4サイズの大きさの差異や、運搬の不手際でできてしまった右上角のへこみ、天地無用のピクトグラムの色合い、そういった様々な気付きに溢れています。もちろんこの段ボールというのは一例で、私たちは日々見過ごしている沢山の「静止」に囲まれています。

 今回『裸婦餓鬼』という冊子を作るにあたり、私たち『静止班』は、「静止」と向き合うことからはじめました。それは精神的な「静止」であったり、動作の「静止」であったり、肉体の「静止」であったり、あるいは現象としての「静止」であったり、と形は様々です。それはとりもなおさずそれだけ多くの「静止」が身の回りに溢れているということです。また「静止」は私たちの生活に密接しているので、様々な問題や感情を呼び起こす原因となっています。それは同じ「静止」というテーマを取って小説を書いたとしても、作者によって様々な切り口や提起、物語の展開を持ち得ているということです。

 今回の冊子は8人の執筆担当者がそれぞれ「静止」というテーマで短編を書いて持ち寄り、約200ページの文庫本を作成しました。本文内容はもちろん、装丁などのデザインも自ら行っています。「静止」というテーマですが、読んだ人の心を動かせるような作品を目指しています。機会があればぜひ『静止』を手に取り、身の回りの「静止」について考えを巡らせてみてください。

 最後になりますが、わせぶんブログへのアクセスありがとうございます。当日は8号館406教室「わせぶん喫茶」にて皆さまの来場を心待ちにしております。


裸婦餓鬼「静止」班編集長・渡辺さよ